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特別レポート: 米国利上げの行方

スペシャルレポート

低金利時代からの脱却―米国の利上げの行方は?

米国 FRB(連邦準備制度理事会)は 2015 年のうちに利上げを実施するでしょうか。その場合、米国のまだ始まった ばかりの経済回復に、また金融マーケットに、どのような影響があるでしょうか。

1. 利上げ時期の予想
2. 金利サイクルのシナリオ予測
3. マーケットへの影響


はじめに

過去 7 年にわたり米国の政策金利がほぼ 0%に抑えられてきた中、FRB は金利引き上げの可能性を模索しています。 ウィリアム・ダドリーFRB 副議長が 2015 年内の利上げを希望すると言明しましたが、FOMC(米国連邦公開市場委 員会)メンバーの中でもハト派(利上げに消極的な姿勢)の代表格と目されているダドリー副議長からの利上げ発言 だけに、注目に値します。

ゼロ金利時代が長い年数にわたって続いたため、利上げの可能性は金融マーケットに混乱をもたらすともみられて います。ただ、マーケットへのマイナスの影響は、最初の利上げのタイミング自体によるものではなく、その後の 利上げのペースにかかってくるものかもしれません。

私たちは最初の利上げが 2015 年後半に実施されると予測しますが、その具体的な日付よりは、その後を含めた金 融政策の引き締めのペースに焦点を当てています。FRB は伝統的な利上げサイクルを踏襲するでしょうか、それと もあくまで状況を見ながら必要に応じて実施していくのでしょうか?

FRB のジャネット・イエレン議長は米国の金融マーケットや経済界の高金利に対する恐怖感を和らげるため、「利 上げは米国経済のパフォーマンスを鑑みながらゆっくりとしたペースで行う」と言明しています。このような、利 上げの実施と中止の両方を使い分けるアプローチは、過去の利上げ政策のセオリーを壊すものといえるでしょう。 金融政策の出口戦略として新しい方策であることから、金融マーケットへのインパクトも過去の例とは異なる可能 性が出てきます。

この特別レポートでは、

 利上げ時期の予想
 金利サイクルのシナリオ予測
 マーケットへの影響

について見ていきたいと思います。

1. 利上げ時期の予想

FRB は、完全雇用と 2%のインフレターゲット達成という、2 つの使命を背負っています。すでに 2015 年内の利 上げを示唆しているものの、その時期についてはまだわかっていません。本年初頭からの経済指標では弱い分野が 数々明らかになってきており、このことが利上げ時期の予想を一層困難にし、同時に今夏という可能性は大きく後 退することとなりました。

図 1 の、シティグループによるエコノミック・サプライズ指数(経済指標予想ギャップ指数)のグラフでは、米国経 済指標が予想を超えて下がっていることがわかりますが、これは米国経済の失速を示唆しているといえるでしょう。 同時に、原油の大幅安の影響もあり、インフレ率は過去 6 年間の最低レベルになっています。では、このように鈍 化した経済状況により、FRB による利上げサイクルの開始は延期されることになるのでしょうか?
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私たちは、FRB が 6 月に利上げをする可能性は低いとみていますが、ではいつになるのでしょうか。その答えに迫 るために、FOMC の(執筆時点から)前回の 3 月の会合時点の、FRB 内の利上げ予想の集計を見てみました。図 2 の ように、FOMC の 7 名のメンバーが、平均 62 ベーシスポイントの利上げが 2015 年内に起こると予想しています が、これは年内に 2 回を超える利上げが行われることを意味します。過半数のメンバーは 2016 年に金利 1.62%と なることを予想し、そのうち 3 名は 2016 年末までに 3%を超えるレベルまで上がるとしています。
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興味深いことに、マーケットは利上げのペースを FRB 自身が想定しているよりもゆっくりなものとして織り込んで いるようです。図 3 では、マーケットが 2015 年末までの利上げを 36 ベーシスポイント、つまり FRB メンバーの 想定の半分以下しか見込んでいないことを示しています。2015 年 9 月まででは、たった 22 ベーシスポイントしか 利上げとして想定されていません(図 4)。

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さて、誰が正しいのでしょう?経済成長の好転が見えない限り、FRB は利上げをしたくてもできないとみえます。 本年初頭から各種経済指標に不調のサインが表れ、さらに第 2 四半期の始まりにかけて減速が鮮明になってきてい る現況においては、利上げをあまり大きくとらえていないマーケットの読みのほうが正しいかもしれません。ただ、 政策金利はすでに相当低いレベルにあるため、たとえ回復のエンジンがまだ点火していない経済分野があっても、 利上げ自体の計画変更はないともいえるでしょう。特に、FRB がゆっくりとした追加利上げペースを意図している のであれば、最初の利上げへの壁はそれほど高くないとも思われます。

いずれにしても、FRB とマーケットで対照的な利上げ予測をしているため、最初の利上げの時期や内容、また世界 の金融マーケットに対しどのような影響が見込まれるのか、見通しは一層不透明になっています。

2.金利サイクルのシナリオ予測

前述の通り、米国政策金利の引き上げの詳細について見通しは非常に難しいといえます。そこで私たちは、想定し 得るシナリオを3パターン描いてみました。

1.マーケットが正しかった場合:

このシナリオでは、最初の利上げは 2015 年 12 月より前には実施されず、その後ゆるやかに金融政策の引き締め が行われていきます。FRB は、本年の第 2・第 3 四半期で続出する弱い経済指標を受け、より慎重なアプローチを 選択。第 4 四半期になってインフレの兆候が見えてきてはじめて、ほぼゼロだった金利の封印を解くでしょう。こ れは FRB が利上げの歴史的なセオリーから脱却することを意味し、以後の長期的な金利上昇の予測がさらに困難に なります。

FRB による利上げのペースがゆっくりとしたものとなると、本年後半はドルの上値が重くなるでしょう。米国債利 回りも低下しますが、世界的に株式は上昇、また新興成長市場国通貨、特に南アフリカランド、ブラジルレアル、 トルコリラなどは年後半にかけて回復基調となるでしょう。

2. FRB が正しかった場合:

この場合、マーケットの見通しが利上げを過小評価していたということになります。FRB は 9 月、および年末まで の各会合で利上げを実施。さらに段階的な利上げは 2016 年にも続き、金利は 1.5%を超えてくるでしょう。投資 家の利益確定の動きが目立つようになり、株式市場は世界的にダメージを被ることになります。また、海外投資、 特に新興市場からの資金引き揚げが起こります。利上げによるマーケットの動揺は、資本フローの弱い新興市場へ の不安をかきたてることになるでしょう。

このような状況では論理的にはドルの上昇が想定されますが、1994~1995 年の例では、マーケットの予測を超え た利上げが行われた際にドルが下落しています(図 5)。こういった予期せぬ形での反応は、速いペースの利上げに よる経済成長へのダメージの不安の表れといえるでしょう。

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3. FRB が 2015 年内の利上げを見送る場合:

2015 年の中盤を通じて米国経済の失速が続くと、このシナリオもありえるでしょう。この場合 FRB は、経済の勢 いが低迷からの脱出速度にのるまで利上げを遅らせるという決断をします。米国経済が十分に強くなるまで待てば、 FRB は前述のような利上げの実施と中止を使い分ける方法ではなく、セオリー通りの継続的な利上げのアプローチ がとれるようになるでしょう。継続的な利上げアプローチは、FRB にとりより好ましいと思われます。マーケット とのコミュニケーションがより明確にでき、また FRB 自身の信用性も守られるからです。

FRB がどのような道を進むにしても、今後数カ月で金融マーケットでは次のように大きな影響が出てくることにな るでしょう。

3. マーケットへの影響

長期にわたりほぼゼロで固定されていた政策金利が上昇するという見込みは、マーケットの混乱をもたらす可能性 が高いといえます。前述のとおり、市場の反応の大きさは今後月単位・年単位の利上げペースにかかってくること になるでしょう。このような不透明な背景の中、ここでは米ドル、米ドル円(USD/JPY)、S&P 500 の短期・長期の テクニカル分析を見てみることにしましょう。

米ドル:

米ドルは2014年第3四半期の初めから上昇基調を保っており、上昇幅はその期間を通じて 25%にもなっています。 本稿執筆時点で、貿易加重平均米ドル指数はいくらか勢いを失っているものの、それでも過去 12 年間の最高値付 近、キーとなる 100.00 レベルをつけています。ドルの安値は高くなる傾向で全体的に右肩上がりを継続しており、 一貫して 50 日移動平均線をサポートラインとして現在 97.00 付近にあります。ただ、強気の動きにもややかげり が見えているともいえます。

まず、4 月中盤から続いてきたドル指数の上昇傾向にあって、ここへきて初めて前日を下回る安値が出てきており、 これが警戒を呼びます。また、MACD と RSI の同時の反落は下降を示唆するパターンです。MACD は 1 ヵ月以上 にわたりシグナルラインを下回って推移しており、RSI はニュートラルゾーンの 50 付近で安定しています。ここ まで順調なだけに、ドルの勢いに過度の疑いをはさむ必要はないものの、もしドル指数が 50 日移動平均線や 96.00 の水平サポートエリアを割ってくるようになれば、一層の下落を呼ぶことにもなるでしょう。そうなった場合、特 に FRB による利上げの 2015 年内の一切の見送りが重なると、相場は 100 日移動平均線の 94.00、また 200 日移 動平均線の 90.00 までもうかがって下落していく可能性もあります。

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米ドル/円(USD/JPY):

一般的な傾向として、米ドル/円(USD/JPY)は米国の金融政策に対して最もきれいな反応を示すため、FRB の金利 政策の変更の影響が大きく出ると思われます。ここ最近はレートが 120.00 付近に収束したまま取引も鈍くなって おり、高値での引けは 2014 年 12 月上旬以来出ていません。ドルと円の双方向取引がバランスをとってもみ合っ ている状況を反映し、MACD も RSI もどちらもニュートラルゾーンで横ばいの動きを見せています。

最近の、116.00 から 121.80 のレンジで安定している状況は、FRB による利上げを 9 月から 12 月の時期と織り 込んでいるとみえます。このため、もしそれよりも早い時期、もしくは速いペースでの利上げとなった場合、ドル 円はこの安定が崩れ、フィボナッチ・エクステンションの 123.55 (127.2%) や 125.70 (161.8%) をうかがって 上昇していく可能性があります。また一方で、利上げの時期の一層の遅れやゆっくりしたペースでの利上げが実施 される場合は、逆に最近の安値である 116.00 付近まで押し下げられることになりえますが、さらに 200 日移動平 均線のサポートレベルである 114.00 も視野に入ってくるでしょう。

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S&P 500:

S&P 500 は過去数年間、強い上昇トレンドにあります。下の週足チャートでみられるように、2010 年 10 月より 上昇チャネルを形成し、その中を順調に上げてきています。この強さがあとどのくらい続くのかというのは誰しも が持つ疑問ですが、よく見てみると、近いうちの反落の兆候がいくつか見られることがわかります。例えば、指数 そのものは高値の値上がりの更新が続きながら、RSI では高値が徐々に下がってきていますが、これは上昇の勢い の失速を示唆するものです。また、下降トレンドラインが 2100-2120 の間で形成されていますが、これは 2 月に 過去最高値の 2120 を付けてからの、上値の強い抵抗線になると思われます。

とはいうものの、2040 などの目安となるサポートレベルはどれもまだ割れておらず、短期的な見通しとしては依 然としてゆるやかな上昇基調です。ただ、もし 2040 を抜けて下がっていった場合、現在の上昇チャネルのサポー トライン割れ、そして前回のサポートレベルの 1980 近辺への下落が始まることになりそうです。一方、さらに上 昇の勢いをもって前述の上値レジスタンスラインを超えていった場合、次の目安として 2138 や 2147 をうかがう ことになるでしょう。これらのレベルは、2007-2009 年の下降トレンド、また 2014 年 9-10 月の下降局面からの フィボナッチ・エクステンション 161.8%に相当するところです。これらを超えると、上昇チャネルの中で一層の 強さで上げていくことになりますが、鍵となるのは上昇する場合のペースになるでしょう。全体として、2040 の サポートレベルや上昇チャネルの下側トレンドラインを大幅に割るなど想定以上のことがない限り、S&P のテクニ カル分析では依然として上昇傾向のままといえるでしょう。

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