Brexit: 1/15の英国議会投票を控え、ポンド円乱高下の可能性

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いよいよ、マーケットを揺り動かす可能性のある大イベントが目前に迫っています。1月15日(日本時間夜)に実施される、英国議会におけるEU離脱案採決です。メイ首相が昨年EU側と取りまとめた、英国のEU離脱および将来にわたるEUとの諸条件についての協定案の可否を採決するものです。本来12月に採決が実施される予定でしたが、議会での否決の公算が高くなったためメイ首相が延期を決断。追い詰められた首相は離脱案への支援を得るために時間を稼ぎました。EU離脱賛成派は今回の離脱協定案につき、実質的に英国が結局EUに半永久的に帰属するもので、2016年の国民投票で示された民意とはかけ離れているとして批判を強めています。EU残留派は、当然ながらいかなる離脱案に対しても反対の立場ですが、特に今回の協定案の実現は現在の条件でのEU残留よりも状況が悪化するという指摘も出てきています。このような状況から、15日に議会で採決が行われたとして、マーケットに不確実性、混乱、そして高いボラティリティをもたらす可能性が高いといえるでしょう。英国銘柄へのインパクトが最も早くそして大きいと思われますが、今回のイベントはそれにとどまらず、世界中の幅広いマーケットに大きく影響を波及させるほどのものでしょう。たとえば株式の幅広い売りが起こった場合、安全資産への資金の急速な退避から、ゴールドや日本円などが上がることになりうるでしょう。

先週末イブニングスタンダード紙で、EU離脱が3月29日よりも延期される公算が高いとの閣僚発言が報道され、ポンドが上がりました。これは、離脱の延期は「合意なき離脱」の可能性を低下させるものとして、投資家に好感されているということの表れといえるでしょう。

現状では、やはり3月29日に合意の有無を問わずEUを離脱するというスケジュールになっていますが、15日の議会投票の行方によっては状況が劇的に変わる可能性もあるでしょう。例えば一つの可能性として、離脱協定案の議会否決をうけてメイ氏が首相を辞任することも考えられますが、そうなった場合は離脱の行方や条件についてあらゆる可能性に道が開かれてしまい、一層予見が難しくなります。
ただ否決後もメイ首相が戦い続ける可能性もあり、即座に辞任するのではなく、プランBを提示するという可能性もあります。しかし、プランBの提示のためには議会日程は3日間しかありません。そして、プランBの採決を行うことになりますが、そこで1月21日(月曜日)が投票の焦点になるでしょう。
もしプランBも否決される場合、メイ首相には、辞任もしくは総選挙の実施という選択肢が残されることになります。他の可能性として、例えば「合意なき離脱」に進むということもありえますが、これはポンドにとっては最悪の事態となるため、EUの離脱の是非を問う国民投票の再実施が現実的に検討されるようになるかもしれません。
なお、メイ首相の離脱協定案が可決される場合以外は、どのようなシナリオでも公式離脱日が3月29日より後ずれすることになるでしょう。ただこれもEU側の合意が条件となります。

注目の議会投票が近づくにつれて、ポンドは報道に過敏に反応し激しく動く可能性があります。投機筋が材料からの利益の先取りを狙うため、この傾向は一層強まるとみられます。一方、すでにポンドのポジションを持っている投資家が一斉に利益確定に動く可能性もあり、これによりポンドが一層不安定になるおそれがあります。 ボラティリティが高まることは短期売買において必ずしも悪いことではないものの、ポンドの長期的な方向性を狙う投資家は、性急に取引を行うよりは、まず議会投票の結果と影響が見極められるのを待ったほうがよいでしょう。
中には、高いボラティリティの中でマーケットのチャンスを狙い続け、サポートラインでの買いとレジスタンスラインでの売りを積極的に仕掛けていくトレーダーもおられると思いますが、予想を超えた変動幅やスピードで値動きが起こるリスクが非常に高いため、おすすめできません。

ポンドクロスの中でも特に影響が大きいとみられる通貨ペアがポンド円です。議会投票の結果一気にリスクオフに向かい始めると一層値動きが激しくなる可能性があり、つまり離脱協定案が否決される流れでは、ポンド円の急落がありえます。
逆に離脱案が可決される場合はポンド円の急騰もありえますが、これはメイ首相の離脱協定案がマーケット寄りともみられることによるものです。今回の離脱協定案はいくらか「穏やかな離脱」を可能とし、英国経済が短中期的に直面しうるダメージは、「合意なき離脱」に比べると低く抑えられるとされているのです。そうなると今度はイングランド銀行はインフレ対策として利上げを検討することになり、それがやがて利回り目当ての投資資金がポンドに流入することにつながることも考えられます。

ポンドは1月2日につけた安値131.95から大きく上げてきており、ここへ来てテクニカル面での節目となる139.00から140.00に達しています。ここでは前回、下落に転じる前にサポートとなっていたエリアです。このサポートがレジスタンスとなって上抜けを阻む可能性もありつつ、もし上抜けを試し直して成功する強さがあれば、短期的に上昇を続け、次のターゲットとして141.60を目指すことにもなるでしょう。逆に下落する場合は、次のサポートとして137.65や136.80が視野に入ってきます。議会投票の影響でこれらを更に割り込む場合、次の心理的節目である130.00付近への下落の可能性も排除できません。いずれにしても、短時間での予想を超えた急騰や急落、そして急激な戻しも含めた乱高下のリスクに対し、通常以上に警戒し対策しておく必要があります。
優れたトレーダーの条件とは、まず何よりも、優れたリスク管理なのです。


出典: TradingView および FOREX.com