米国雇用統計見通し ― 高金利懸念の中、賃金の上昇に注目

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今晩(米国時間金曜朝)、米国労働局より発表される2月分の雇用統計は市場と投資家にとって大きく重要度を増してきています。先月の発表はインフレ成長と利上げの加速への懸念を爆発させ、株式市場をはじめとするマーケットのボラティリティの大波を引き起こしたため、今回は警戒と注目が高まっています。とりわけ、賃金の成長が予想以上に高かったことが判明したことが、それまで気楽に上昇を享受していた株式マーケットへの突然の平手打ちとなりました。発表後数日で、株式市場のボラティリティが急激に高まり、10%以上もの下落調整が入りました。その後マーケットは損失分を大幅に回復しましたが、消費者物価指数や米国債の利回りの上昇、新任のパウエルFRB議長の議会証言に表れたタカ派姿勢、そしてトランプ大統領の鉄鋼・アルミニウムの輸入関税の発表と、投資家の懸念はむしろ増大しているといえるでしょう。イベントが多く株式市場が大揺れで方向感を欠く中、ドルは高インフレ成長と利上げへの期待から一旦は上昇しましたが、トランプ大統領主導の貿易戦争への懸念から下落しています。

米国時間の木曜日の日中、マーケットはトランプ大統領の関税のプランの詳細およびカナダやメキシコなどの除外国に関する情報を待つ格好になり、株式は動きが混在する一方でドルは急上昇しました。ただこのドルの上昇の原因の大半はむしろユーロの急落に呼応したものといえるでしょう。ECBの決定が予想されたほどタカ派ではなく不明瞭だったことがユーロに影響しました。ともあれ、今日の雇用統計はトランプ大統領の輸入関税、そして北朝鮮との直接対話に関する発表直後のものとあって、マーケットは一層注視しているといえるでしょう。

雇用統計の予想値
今晩発表されるNFP2月速報値の予想コンセンサスは「200,000の増加」、だいたい1月の予想以上の伸びを継続する数値となっています。また、2月の失業率は極めて低い水準の4.0%、過去数ヶ月の記録的な4.1%から更に進むものと予想されています。賃金成長は時給換算で、12月分で確定値で上方修正された0.4%、そして1月の予想以上の0.3%に次ぐ0.2%の上昇との予想です。

先行発表された雇用統計
先立って発表された雇用関係の指標は、個々では程度の差こそあれ、全体として雇用情勢の力強さが表れたものとなっています。ADP民間雇用レポートはここ数ヶ月の傾向通り、予想よりもかなり良好なものでした。ADPによると、民間雇用は事前予想の200,000を超えて235,000と堅調な増加でした。ただ、ADPは米国労働局のデータと比較して不正確な場合もあり注意が必要です。
またISM製造業景況指数の雇用データでは、1月の54.2から2月は59.8と大きく成長を見せています。一方サービスセクター(ISM非製造業景況指数)では、1月の61.6から減速して55.0となっています。
2月の失業保険受給申請数はほぼ予想通りかそれ以上に低く、歴史的にも低い水準を保って労働市場の堅調ぶりを表しています。ただ木曜日に発表された2月末のデータは若干予想よりも高い申請数を表しています。

今回の予想値およびドルの反応の見通し
1月の確定値の予想のコンセンサスが200,000の雇用増加となっており、また今回の事前公表データが堅調ぶりを示していることから、今回私たちは200,000~220,000と予想します。
さて、ドルの動きは多様なファンダメンタル要因によって左右され、特に現在は世界的な貿易戦争の懸念がある中ですが、いずれにしても今回のNFPが上記の範囲を超える場合、少なくとも短期的には上昇を見せるでしょう。上記の範囲内に収まる場合はそれほど大きなインパクトを与えることにはならず、また上記予想を大きく下回る場合は現在のドル弱気相場が継続することになりそうです。もちろんこのNFP速報値以外の重要指標も総合的に見ていくことが重要で、特に賃金成長が予想を超える場合は、ドルはインフレ成長や利上げ期待に支えられてより強い伸びを見せることになる可能性があります。

NFP雇用増加数

米ドル反応予想

250,000超

一層の強気

221,000~250,000

強気

200,000~220,000

中立的

170,000~199,000

弱気

170,000未満

一層の弱気