米ドル反発、米国債下落、ECB会合を前に金融業界での懸念高まる

Article By ストラテジスト

米ドルの話題:

  • 米国債利回りが下落しているにもかかわらず、世界各国の銀行に広がり続ける懸念に応じたリスク忌避の流れから、米ドルは強さを見せている。この懸念は、今度は欧州に端を発するものだ。
  • Fawad RazaqzadaFiona Cincottaは今朝発表された記事の中で、明日のECBによる金利決定を前にした欧州の銀行業界での懸念を取り上げそれが米国の流動資産にどのような影響を与えているか(英文のみ)を解説している。
  • 筆者も昨日のウェブセミナーでこの件について詳しく議論し、次回も再度取り上げる予定だ。登録はこちら(英文のみ)

先週木曜日、シリコンバレー銀行(SVB)の問題(英文のみ)のニュースが世界を揺るがし、市場にも波及した。米国の大手銀行の経営難はそれだけでも注目に値するが、実際に不安が高まる要因となっているのは、SVBが直面した問題が理論的には他の地方銀行にも波及する可能性があるということだ。ほんのわずかなトラブルの兆候でも、投資家や預金者の行動に変化をもたらし、銀行がさらに大きなプレッシャーにさらされる可能性がある状況では、市場は先んじて行動しようとする。

週末に発表されたSVBとシグネチャー銀行の預金保護は、月曜日の大統領演説と同様、市場に落ち着きを与えるために用意されたものだった。しばらくの間は功を奏していたものの、先週の木曜日の銀行株下落につながった要因はまだなくなったわけではない。今朝は欧州で影響が出始め、クレディ・スイスが銀行の大口投資家の一人のコメントを受けて新たなプレッシャーにさらされている。

現在、金利上昇が世界中で進む中、長年にわたる低金利やマイナス金利から銀行の投資ポートフォリオは脆弱になっているのだ。そして明日のECBの金利決定では、さらなる利上げが見込まれている。先月のインフレ率が8.6%、今月の速報値が8.5%という中で、欧州中央銀行はインフレのさらなる進行(そして将来的にはより大きな問題)のリスクを冒すことなしに利上げから方向転換できる状況にはない。

米ドルのクオリティへの避難

米ドル価格は反発しており、日足チャートでは現在不完全な明けの明星が形成されている。これはしばしば反発値上がり後に見られる形だ。昨日の安値を維持してdojiの形成につながっているサポートラインはこれまでと変わらない103.45ドルの水準で、次のレジスタンスラインは105.00ドル近辺と思われる。

米ドル - DXY日足価格チャート(参照用、Forex.comプラットフォームでは利用できません)。

チャート作成:James StanleyTradingviewのデータに基づく。

米国債利回りはリスク忌避の心理から下落

市場での懸念が増すと投資家は資本収益率を優先し、利回りの高い投資をやめて、より安全性の高い投資を行うことがある。この動きは通常米国債への資金流入につながるもので、今朝は米国債の価格が強さを見せており、利回りは昨日の反発後に下落している。

今朝、2年物国債の利回りは6ヶ月ぶりの低水準となり、銀行業界の問題を適切に切り抜けたという希望的観測が浸透し始めていた昨日からの上昇は、完全に帳消しになった形だ。

米国2年物国債利回り

チャート作成:James StanleyTradingviewのデータに基づく。

明日のECB会合を前に、ユーロ/米ドルに注目が集まる

ヨーロッパでは依然としてインフレ問題が続いており、先月のインフレ率は8.6%、今月の速報値もほぼ変わらず8.5%となっている。最終的な値は金曜日に発表されるが、その前に欧州中央銀行の政策金利決定(英文のみ)経済カレンダーでは明日に予定されている。

ECBはインフレに対処するため、50bpの利上げを実施すると見込まれている。しかし欧州の銀行で問題が顕在化している今、本当にそれほどの利上げができるのかは疑わしい。また(利上げしたとしても)その後何が起こるかわからないという懸念もある。

高金利環境では債券や固定資産のポートフォリオの価値が低下することから、低金利やマイナス金利が何年も続いた後で急に金利が上昇すると、銀行は未実現の流動損失を抱え、資本力に懸念が生じることがある。さらに、預金者が資本を引き上げる取り付け騒ぎになれば(その結果、ポートフォリオからさらに担保が取り除かれる)まさに大惨事につながるだろう。

ECBはこのシナリオにどう対処するだろうか?それは今後の展開を待つしかないが、市場の反応では会合を前にユーロは大きく値下がりし、現在は1.0500ドル付近の主要サポートゾーンのすぐ上で取引されている(英文のみ)。これは今年の第1週に安値を維持したのと同じゾーンで、その後は1.1033ドルまでの強気な値上がりへとつながった。

売り手がこのサポートゾーンを割り込む値下がりを引き起こせば、より長期的なサポートゾーンは1.0350ドル水準となる。

ユーロ/米ドルの日足チャート

チャート作成: James Stanley 

円の強さ

筆者は月曜に円について取り上げ(英文のみ)、さらに昨日のWebセミナー(英文のみ)でも低金利による円高の強さ可能性について強調した。

米ドル/円は2021年の大半と2022年の最初の9ヶ月間にわたって値上がりし、米国金利の上昇と日本の低金利によりキャリートレードが推進され、ペアのロング側が健闘を見せていた。しかし金利の見通しが好転し始めてすぐ、昨年10月中旬には米ドル/円も下落に転じ、21ヶ月かけて構築されたトレンドは約3ヶ月で50%のリトレースメントを見せるに至る。

日銀の総裁がイールドカーブ・コントロール政策に協力的と思われる新総裁に交代することから、この通貨ペアは1月中旬に50%リトレースメントから反転し、先月は値上がりを見せた。

しかし米国で利下げへの動きが出れば、キャリートレードの魅力も低下して巻き戻しが始まるだろう。そうなれば米ドル/円は、米ドル安を反映する数少ない主要通貨ペアの一つとして目を惹くことになる。現在米ドル/円の価格は、1月の安値を更新したのと同じ38.2%のフィボナッチリトレースメントの下を試しており、この水準を下回れば、次のサポートエリアとなるのは131.58円と130.40円と考えられる。

米ドル/円の週足チャート

チャート作成: James Stanley


  1. 口座開設ページでご自身に最適なFOREX.com口座を選択
  2. 必要書類のアップロードとともに口座開設のお申込み
  3. 取引プラットフォームにログインしてお取引開始


本レポートに記載されている情報や見解は、一般的な情報としての使用のみを目的としたものであり、FX、CFD、その他あらゆる金融商品の購入や売却に関する勧誘や依頼の意図は全くありません。本文書に記載されている見解や情報は、予告や通知なく変更されることがあります。本文書は、特定の投資目的や背景、特定の受領者の意思などに沿って書かれ配布されたものではありません。本文書内で引用・言及されている過去の価格データは、当社独自の調査や分析に基づいており、当社はそのデータの提供元やそのデータそのものの信頼性につき、いかなる保証もせず、また筆者や訳者、各国の支社・ 支店も、本文書の内容の正確性や完全性についても一切保証しません。本文書については英語版を原本とし、翻訳版と原本に相違がある場合には、原本の内容が優先するものとします。本文書の内容に基づく直接または間接の損失、そして本文書を信頼したことにより生じた損失についても、当社は一切その責を負いません。